デビュー

2月にしては暖かい午後、駅前に向かって川沿いの道を歩いている男が2人。
「まさか、本当に行くことになるとは思わなかったよ。」
革ジャンからジッポーを取り出し、煙草に火をつけながら、Dはつぶやく。 それを聞いたYは面白くなさそうに
「何言ってんだよ。いいだしっぺはおまえだろ?」
「そりゃ、まぁ、そうだけど・・・・・・」
「なに?おまえ、まさかビビッてんの?」
「べ、べつにビビッてなんかいねぇーよ。ただ、ちょっと」
「ただ、ちょっとなんだよ?」
「こないだ行こうって言ってから、やけに早くいくことになったからな。 そんなに行く気満々だなんてちょっと意外だっただけだよ。」
「善は急げって言うだろ?だから、こういうのは、早いほうがいいと思ったんだよ。」
「まぁ、それもそうだな。」
駅前に近づくとDが思い出したように
「なぁ?ところでいくら持ってきた?」
「ん?俺?1万ってとこかな。」
「そうか。それで足りるのか?」
「足りるだろ。たぶん。それより、おまえはいくら持ってきた?」
「俺は3万位だな。」
「おっー。なんだかんだ言ってやる気満々じゃねーかよ?」
「まぁな。どうせやるならな。それに万一ってこともあるしな。」
「そりゃそうだな。」
目的の店はすぐに見つかり入っていく。
「昼間だからガラガラなんじゃねぇーの?」
「いや、そうとも限らないだろ?」
実際に店に入るとすぐに身なりのきちんとした礼儀正しそうな店員が出てきて
「今、ちょっと空いてないので、しばらくお待ちいただけますか?」
もちろん、時間だけは腐る程あるので、もちろん待つたせてもらう。
しかし、待っている間も初めてのことなので、どことなく落ち着かない。
「こういう所ってもっと汚い感じかと思ってたよ?」
と店内を見て素直な感想をもらすD。 確かに店内はDが想像していたよりもかなり綺麗だ。
それはYも同感だったらしく
「あぁ、俺ももっと小汚い感じかと思ってたよ。」
そんな会話を聞いていたのか先程の店員がそばにやってきて
「お2人とも、初めてですか?」
と聞いてきた。もちろん、DもYも初めてだと答えると、
「では、こちらが当店のシステムになっていますので、 ご覧になってお待ちください。」 と何やら細かいことが書いてある紙を1枚づつ渡し、 奥のほうへと戻っていく。
「やっぱ、ちゃんと読んだ方がいいのかな?」
「そりゃそうだろ?しっかり、読んでおかないと後で困ったりするだろ。」
「それもそうだな。」
大人しく読み始めてしばらくたつと、店員がやってきて
「空きましたが、別々がいいですか?それともお2人同じでもかまいませんか?」
と聞いてくる。
「どうする?」
などと緊張が顔にもろに出ているDがYに聞く。
「う〜ん。どうせなら、一緒にやるか?」
多少緊張気味のYが答える。
「そうだな。それじゃ一緒で。」
「それでは、こちらにどうぞ。」
店員に案内されるままに、ついていき実際に始めると、 Dは緊張のせいか多少手が震えている。
それを悟られまいと腕に力を入れてみるが無駄だった。
これじゃ、素人だってばれる。
ばれたら、なめられる。
なめられるなんて絶対にだめだ。いやだ。
これは、なんとかしないといけない。
と思うDだったが、気ばかり焦ってどうしようもない。
冷静になれ。冷静にやれば大丈夫だといいきかせようとするが、 どうにもならない。
もう、こうなると相手の手牌を読むどころではない。
とにかく、手の震えを止めるのに必死で、麻雀どころの話ではない。
くっそーーー。どうにかしなきゃ、いけねぇーのにどうにもならねぇー。
そんなDの思いとは関係なく場は進み、DとYは3,4着で1回戦は終わる。
金に不安のあるYは
「俺はもう抜けるけど、おまえどうする?」
と聞いてくる。 もちろん、全然納得のいかないDは
「もうちょっと打ちたいんだけどいい?」
「いいよ。それなら、ちょっと漫画でも読みながら待ってるよ。」
半ば呆れながら人のいいYは答える。
しかし、ここでやめたYは正解だった。
往生際の悪いDはそれから数半荘負け続け、 挙げ句の果てに先ヅモしまくりの馬鹿面さげたおっさんに
「この早さについてこれたら1人前だよ」
なんて言われるはめになる。
先ヅモ禁止の雀荘でこんなことを言われて、 マジでぶち切れそうになったDだが、 まだ多少緊張していたせいもあり、 ただただ、苦笑するのみであった。
その後、へろへろになるまで打ち続け、 外に出ると街のネオンが妙にまぶしい。
帰り道、Dは空になった煙草のケースを握り潰しながら
「フッ、今夜は風が身に凍みるぜ」
「・・・俺はそれほどでもないよ?」
「・・・・・・」
「・・・・・・」

今回の教訓。ときには引くことも肝心だ
初めて雀荘に行ったときは、ほんとに緊張したもんです(笑
まぁ、だいたい雀荘初めてなのかどうかなんて、 最初の配牌とるときとかである程度わかっちゃうんですよねー。
というわけで、初めていくときは雀荘デビューってことを隠そうとしたり、 変に力んだりすると実力が発揮できなくなったりするから、 みなさんはそんなことがないようにしましょうね(笑
それでは、みなさんさよならー。

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