エスパー?

数日ぶりに大学の研究室に行ってみるとYが一人でぼーっとしている。
「よっ。はやいな」
Dが声をかけるといきなり
「いくら負けた?」
挨拶も抜きにYが満面の笑みを浮かべて嬉しそうに聞いてくる。
「・・・なっ、なんのことだよ?」
なんのことだかわからないDは当然の疑問を口にする。
「だから、昨日いくら負けたんだよ?」
相変わらず、嬉しそうに聞いてくる。
しかし、なんのことかさっぱりわからない。
いや、実は心当たりはあるにはあるが、 Yが昨日のことを知っているわけがない。
それどころか、昨日のことは誰も知らないはずだ。 そう、俺が一人でこっそり、フリー雀荘に行ったことなど・・・
「でも、おまえ昨日雀荘行ったろ?で、いくら負けた?」
俺はなんでも知ってるぞ?といわんばかりに自信満々で聞いてくる。
「・・・いっ・・・てないぞ?・・・俺は・・・」
などと一応しらをきってはみたが、さすがに内心の動揺は隠しきれない。
しかし、隠し通さねばならない。
昨日のことが知れたら、馬鹿にされるのは目に見えている。
それだけは何が何でもさけなければならない。
しかし、そんなこちらの事情もお構いなしに追求してくる。
「まぁまぁまぁ、そんな隠すことないだろー?素直にみとめちゃえよ。」
当然素直になんか認めるわけにいかないので、
「素直も何も俺は行ってないんだから、認めようがないよ。」
などと悪あがきをしてみる。
しかし、なんでこいつ昨日俺が大負けし・・・じゃなかった、 雀荘に行ったことをそもそも知ってるんだ?
こいつまさか昨日俺が雀荘に入るところみてたんじゃねぇーだろーな?
いや、でもまてよ。 ちゃんと入る前には周りをみたけど、 知り合いなんて誰もいなかったよな?
まさか、メンバーの中に知り合いがいたのか?
でも、メンバーは全員おっさんだったぞ?
まさか、おっさんの知り合いなんていねぇーだろーしな。
それとも、メンバーの中にこいつの親父でもいたのか?
でも、こいつの親父は東北にいるはずだ。
それとも、職にあぶれてこんなくそ田舎まで出稼ぎにでも来たのか?
しかし、どう考えてもそんなことないだろーな?
なかなか考えがまとまらねぇー。
一体なんでこいつは俺が雀荘に行ったことを知ってるんだ?
全然わからん。などと考えていると
「そんなに言えないほど、負けたのか?」
ゲラゲラ笑いながら聞いてくる。
雀荘に行ったのがばれるのは、まぁいい。
しかし、なんでこいつは俺が負けたと決めつけるんだ?
何を考えているのかさっぱりわからない。
これはちょっと探りを入れてみる必要がありそうだ。
「なぁ?もし仮に・・・仮にだぞ?」
「あぁ、なんだよ?ようやく白状したくなったか?」
「いや、行ってないけど、もし仮に俺が雀荘に行ったとして、なんで負けたと思うんだよ?」
こんな質問をすれば、行ったということを認めたも同然なのだが、 かなり動揺しているので、そんなことには気づかない。
「いや、なんとなくな。で、いくら負けたんだよ?」
こいつ!!質問してんのは俺なんだぞ?
なんで俺の質問に答えようしない!!
なんとなくで俺が納得すると思ってんのか、こいつは?
おまけに俺が負けたってことに、これっぽちも疑問をもっちゃいねぇー。
なんでおまえはそんなに自信満々なんだよ?
もう、訳わかんねぇーよ!!
しかし、このままじゃまずい。非常にまずい。
とりあえず、訳わかんねぇーけど、なんとか適当にごまかすしかない。
「行ってないもいないのに、負けるわけねぇーだろ?なぁ?」
「おっ、なかなか切り返しうまいねー。でも、そんなに否定するってことはかなり負けたってことか?」
そんなんで誉められても全然嬉しくねぇーよ。
それどころか俺が大負けしたことが、ばれそうだ。 ごまかしきれねぇーかもしれねぇー。
「って、ことは5万か?ん?それとも6万以上か?」
人がこんなに否定してるのに、相変わらず自信満々で聞いてきやがる。
確かに俺は昨日1日で10万も負けたよ。
しかし、そんなことが知れたら、こいつら絶対に麻雀するたびに笑い転げるに違いない。
それだけは絶対にさけなきゃいけねぇー。
しかし、もうだめだ。まともにやりあってたんじゃ、隠し切れねぇー。
こいつがなんでこんなに自信満々なのか全然わからねぇーから、 対処のしようもねぇーよ。
こりゃ、逆ギレでもしてごまかすしかねぇー。
「もう、おまえしつけぇーよ。俺は行ってないって言ったら、行ってねぇーんだよ!!」
「わかったよ。怒るなよ。そういうことにしといてやるからさ!!」
しかし、全然こいつはわかっちゃいねぇー。
まぁ、俺だけの秘密にしといてやるから、安心しな!!って面でこっちを見てやがる。
なんか納得できねぇーけど、これで訳のわからない追求を逃れられるならまぁいいさ。
でも、本当にこいつなんで知ってやがったんだ?訳わからん。

数週間後。
俺は小遣いを稼いでやろうと新装開店2日目のパチンコ店に開店1時間前から並び、 戦闘態勢を整える。
開店直後、昨日目星をつけていた台にいちもくさんに駆けつける (実は昨日も打って九千円だけだが勝った)
店内は開店直後からすごい人の波だったが、 無事に俺はターゲットを捕獲した。 残り時間はたった3時間。 この3時間でどれだけ出せるかが勝負だ。
店内を見回すともう空席はない。 この台で勝負するしかない。
しかし、この台でいいはずだ。俺の目に狂いはないはずだ。
だが、まずは調査の必要がある。千円で何回転くらいするのか。
確かこの機種は36回転でボーダーだと言う話だ。 それならば40回転くらいならまずまずだろう。
調査を開始すると予想よりいい台らしく50回転前後コンスタントに回る。
長年の習性で回転数のチェックは忘れない(他にやることがないという話もある)
しかし、そんなことはまるで意味がなかった。
さすがに新装開店釘があめぇーなと思っていたのも最初だけ。 確かによく回る、よく回るんだが、それだけだ。
次々と消えていく漱石と諭吉達。
さすがの俺も千回転までは気合いで数えていたが、 だんだん意識が朦朧としてきて、どれくらい打っていたのかわからなくなる。
閉店時間が迫ってきたころには、3人いた諭吉の姿はすでになく、 残り数人の漱石達がいるだけだった。
これだけ、つぎ込んで、これだけ回しているのに一回もフィーバーがかからないっていうのは、 どういうことなんだ?
周りを見渡すとドル箱を積み上げてる人間が全くいない。
おかしい。
これだけの人間が打っていて、ドル箱を積み上げている奴がいないなんて。
まさか、新装開店2日目から回収に入ってるのか?
いや、そういえば昨日もドル箱を積み上げてる奴なんてほとんどいなかったような気がする。
・・・・・・まさか、開店初日から回収してるのか?
しかし、もうそんなことは、はっきり言ってどうでもいい。
さすがにもう、負け分をとりかえすことはできないが、 せめて一回くらいフィーバーさせないことには気持ちが収まらない。
すでに二千回転近く回しているんだからな。
しかし、そんな気持ちとは裏腹に店内には蛍の光が流れ出し、 ついに最後の漱石も去っていった。

次の日の午後に研究室に行くと、またYが一人で研究室にいる。
こいつ結構まじめだなー。なんて思っていると
「いくら負けた?」
と嬉々として聞いてくる。
しかし、俺はもうあわてない。
何しろ昨日行ったのは、雀荘じゃなくてパチンコだからな!!
「昨日は雀荘になんかいってないよ。残念だったな。」
自信満々で答える。
しかし、奴には全然堪えていなかった。
「いや、雀荘じゃなくて、パチンコ行ったろ?」
こいつなんでそんなこと知ってるんだ?
もしかしてストーカーか?
それとも、俺フェチか?
なんなんだ?なんで俺がパチンコ行ったこと知ってるんだ?
しかも、俺が負けたことまで知ってやがる。
それでも一応またしらを切ることにした。
「いや、行ってないよ?」
こんな返事じゃ納得しないことは百も承知だが、 他にいいようがない。
事実奴は全然納得しなかった。
それどころか、奴はとんでもないことを言った。
「昨日、三万六千円負けたろ?」
・・・・・・なんでこいつは金額まで知ってるんだ? さすがの俺もこれにはビビった。
昨日店内をみたときには、こいつはいなかった。 それは間違いない。断言できる。
じゃぁ、なんでこいつは金額まで知ってる?
訳がわからねぇー。
こいつに隠し事できないのか?
さすがの俺も観念し、素直に白状した。
「やっぱりな。そうだと思ったよ。でも、まぁ元気だせよ。そんなときもあるさ。」
まぁ、パチンコで負けたのも気にならないといえば嘘になるが、 それより、なんでこいつが俺が負けたことを知ってるかっていう方が気になる。
「なぁ?なんで俺が負けたことわかった?」
ろくでもない回答が返ってくるとは思いながらも一応聞いてみる。
「まぁ、勝負師の勘って奴かな。」
勝ち誇りながら言ってくる。
やはり、ろくでもない回答だ。
しかし、それ以外考えられないのもまた事実だ。
これは素直にこいつの勘の良さを認めるしかないということか。
俺は少しだけ感心しながら、
「ほんとおまえ勘がいいよな?こないだの雀荘のことといいさ。」
「まぁな。でも、それほどじゃないけどな」
と少し誇らしげ。
しかし、それが有効に活かされてないってことを教えといてやらないといけない。
「でも、その勘って麻雀で活かされてないよなー?」
「うるせぇーよ!!」

今回の教訓。勘のいい奴っているんだよ?
本当にY氏の勘のよさ(勘がいいなんてもんじゃないんだけどね)には驚かされました。
しかし、これ以上に摩訶不思議な出来事を俺は経験した。
その摩訶不思議な体験とは一体・・・・・・
次回の更新を待て!!(うそ)
それでは、みなさんさよならー。

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