千両

それは大学祭で他学科が運営している雀荘で起こった。
半荘が終了し、負け分を払おうと財布を見るが万札しかない。
両替してもらおうと入り口付近のスタッフに声をかける。
『すいませ〜ん。万両お願いします。』

が、返事がない。それどころか待てど暮らせど、両替しにこない。
こんな6席位しかないところで声が届かないはずないんだがな〜? とは思ったが、ちょっと離れているので聞こえなかったのかと再度少し大きめの声をかけてみる。
『万両お願いします。』
『・・・・・・・・・・・』

やはり、返事がない。 はっきり言って、困った。
これじゃ両替ができない。
両替ができないということは、半荘の清算ができないということだ!!
そして、半荘の清算ができないということは、次の半荘ができないってことだ!!
つまり、この両替をしようとしている間、ずっど負け続けの状態というわけだ。
そんなことが許されて良いものだろうか?
もちろん、良いわけがない!!

そこでまず、無視しているとしか思えないスタッフを呼ぶために、
『すいません!!』
と少しばかり大きめな声で言ってみた。

さすがにこれには気づいたようで、こちらに近づいてくる。
『呼びましたか?』
殺気・・・・・・じゃない、さっきからな!!
ほんの少しだけムカついていたので、ちょっとだけぶっきら棒に答えた。

『・・・呼んだ』
『で、どういった・・・・・』
用件を聞こうとしているスタッフの台詞を遮り、要求を伝える。
『万両!!』
ふぅ〜、ようやく、言えたぜ。言ってやったぜ。手間かけさせやがって。
しかし、そう思ったのも束の間、

『・・・・・・・はぁ?!』
間の抜けた返事が返ってくる。
おいおい、兄さん、俺の万札意地でも崩さねぇつもりかい?
それとも何かい?ここは両替禁止なのかい?
なんてことも思ったが、再度控えめに要求を伝えてみる。

『だから、万両!!』
『・・・・・・で、万両ってなんですか?』
むっ?!学際限りの雀荘スタッフもどきとはいえ、万両もわからんか?
信じられん。 しかし、懇切丁寧に説明しないことには両替してもらえそうにないので、きちんと説明する。
『万両っていうのは、1万円札を両替すること。わかった?』
うん。実に誠実で親切で紳士な教え方だ。

ようやく苦労して両替して頂いたのだが、数半荘後に手持ちの千円札がなくなったので、 5千円札を両替してもらおうとまた声をかける。
『5千両〜』
しかし、またもやスタッフはやってこない。
この野郎。またシカトこいてんのかよ。なめんなよ?
それとも何か?今度は5千両がわからねぇーから、やってこねぇーとか言わねぇーよな?
まさかな?一応、それなりにお勉強のできるってことになっている大学だしな〜。
万両の次に5千両とくれば、当然5千円両替って小学生でも気づくよな?

っていうか、この野郎、呼びかけに応えやがれってんだよ。
しょうがねぇーんで、もう一度読んでみることにする。
当然、5千両なんて言っても、やって来そうにもないので、
『すいません。』
とだけ言う。 案の定、すぐにやって来て、
『なんでしょうか?』
などと白々しいことを聞いてくる。

おいおい、なんでしょうか?じゃねぇーだろ?
5千両だよ?5千両?わかる?わかるよな?
『5千両!!』
『・・・・・・ですから、5千両ってなんですか?』

こいつ、万両が万札両替ってことは、さっき教えてやったじゃねぇーかよ。
ってことは5千両は、5千円両替だって気づいてもいいんじゃねぇーか?
それとも何か?嫌がらせか?これは嫌がらせなんですか?
実はわかってるけど、わかんねぇーふりしてるとか?
そうかい。そうかよ。だったら、はっきり、言ってやろうじゃねぇーかよ。
『5千両っていうのは、5千円両替のことだよ。わかった?』
まったく、あんまり手間かけさせんなよ?

ようやく両替できたと思っていたら、千円札5枚渡された。
こっちは細かいのもいるっつーの。
学習能力があることを期待して、再度両替を頼んでみる。
『千両してくれる?』
しかし、やはりというべきか、反応がない。
なんかいやな間があったが、もしかしたら、 この間に千両について考察しているんじゃないかと思ってしばらくだまっいると、
『ですから・・・・』
などどすっとぼけた台詞が出て来そうだったので、すかさず
『千円両替してくれ!!』

両替するのにすっかり疲れ果て、喉が渇いたので飲み物を頼む。
『アリアリ〜』
頼んでから、しばらくは気づかなかったが、アリアリでは通じないのではないかと不安になってくる。
しかし、確認しようにも既にスタッフは教室からはいなくなっていた。
まさか、ここはアリアリなんだよ?なんて思って、またシカトこいてんじゃねぇーだろな?
こりゃ、どんなアリアリが出てくるかわからねぇーな?
もっとも、こっちはどんなアリアリが出てきても、驚きゃしねぇーぞ?と思っていると、 数分後、ごく普通(?)の砂糖・ミルク入りのコーヒーが無事、左脇の机に置かれる。
なんだよ?普通のアリアリですか?拍子抜けです。
それにしても、ふ〜ん、千両を理解する頭はなくてもアリアリはわかるんですか・・・・・・・・・
それともやっぱり嫌がらせだった?(笑

今回の教訓。相手に合わせましょう(^^;;
五百両も実は言いたかった・・・・・・・・・
それだけが、心残りです(笑
それでは、みなさんさよならー。

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